制作日誌

『霧雨が降る森』公開から9年……そしてリメイク版の内容について

 『霧雨が降る森』公開から――今日で9周年が来ました
 正直、時間の流れの速さに、驚いています。

 しかしリメイク版を作るにあたり、過去の資料や、インタビューを受けた雑誌を見返すことで、当時のことを思い出す時間が増えました。そして――しみじみと「ああ、もう9年も経ったのか」と感じている日々です。

 そんな中、昼間にもチケット先行発売の抽選の告知があったように、朗読劇まで開催していただくことになりました。なんだか――感慨深くもあり、一方で新たな緊張のようなものも感じています。

 そもそも――。

 『霧雨が降る森』が制作されたのは、これまでにもインタビューなどで語ってきたように、大学を卒業して地元に戻り、演劇をやめて、鬱屈していた時期でした。
 この作品はRPGツクールVXAceで制作しましたが、特に制作者のコミュニティなどにも入らずに、就職した会社から帰宅後に、一人コツコツ調べながら独学で学んで作り上げています。その作業はあまりにも大変で、途中で休みを挟んだ時期もありました(ちなみに、その休んだ期間に『殺戮の天使』を思いついています)。
 結局、最終的にはリリースまでに3年の時間が必要でした

 そう考えると――なんと、この作品を思いついてから、すでに10年以上の時間が流れています。

■阿座河村で過ごす「第二章」

 さて、今回のリメイクの経緯は以下の記事で書きましたので、今日はもう少しリメイク版の具体的な内容について書きたいと思います。

『霧雨が降る森』、リメイクします

 そもそも旧版の『霧雨が降る森』は、シオリと、せいぜい須賀を中心とした物語で、世界観も基本的には資料館の中と森を描いていただけです。
 ファンの方は佐久間や望月に好印象を持って、様々な想像を広げてくださっていましたが、実際には彼らが登場したのは、ほんの少しだけです。
 とても――小さな世界の物語でした。

 しかし今回は、前半の「資料館探索」と後半の「森の中の探索」の合間に、「第二章」として阿座河村のパートを大幅に挿み込みました


 もちろん決して大きな村ではないのですが、自由行動の時間が大きく取られており、色々なミッションも入れています。
 このパートでは自分で動き回って、情報を取りに行けば行くほど、面白くなるように作りました。もちろん、『殺戮の天使』のように普通に一本のストーリーを辿る遊び方も出来ますがぜひどんどん村人に話しかけてほしいです。台詞もどんどん変わりますし、村の見え方も大きく変わっていきます。

 そして、そんな風に阿座河村のパートを挿んだことで、リメイク版はシオリを中心としながらも、物語世界をトータルに描く内容に変わっています

 かつての『霧雨が降る森』は、シオリが記憶に翻弄される、とても悲しい物語でした。
 しかし今回の物語では村全体を描くことになり、シオリは両親の死と向き合い、村やその過去と向き合い――一人の人間として「自分に起きていること」に向き合う人間になりました

■「迷い」や「曖昧さ」と一緒に生きる物語

 もちろん、そのことでリメイク版は大きく印象が変わる内容になっていると思うのですが、やはり――それなりに大変です。

 物量の多さもそうなのですが、今回の作品ではそれぞれの人間の考えや想いを表現することに、丁寧にこだわっています。

 例えば、『殺戮の天使』のザックたちは、どうしようもない絶望的な運命の中にいる一方で、とても美学が「明快」です。
 でも、『霧雨が降る森』――それも特に今回のリメイク版におけるシオリなどは、もっと自分から主体的に動いていける立場です。そして、だからこそ私たちのように日々、等身大の「人間」として思い悩みながら生きています。佐久間や須賀や望月も、それは一緒です。

 例えば、連載時に『殺戮の天使』を楽しんでいた中学生や高校生は、今ごろ大学生や社会人になっていると思うのですが――そんな時期には日々の中で、これまでにないモヤモヤを感じることがあると思うのです。

 彼らも、阿座河村の色々な人間たちとの関係性の中で、迷います。
 でも、そこで彼らは、しがらみを綺麗に断ち切るわけではなさそうです。
 そのモヤモヤをあえてスッキリさせずに「引き受けて」、むしろ迷いと一緒に生きていこうとしているようです。

 今回のリメイク版では、そんな彼らの姿を、大切に描いているつもりです。

 実のところ、旧作のメインストーリーにおける大事な部分は、ほぼ変えていません
 しかし、その変わらないメインの物語の周囲に、こんな風に新しいストーリー、新しい要素、新しいキャラクターを入れてみました。
 前回からストーリーが大きく変わるのではなく、前回のストーリーの周辺に大きく追加をしていくことで、以前とは違う新鮮な印象が生まれていれば……と思いながら、制作をしてきました。

 まだ作業が残っていますが――もう少しで、リリースにこぎ着けられそうです。
 ぜひ楽しみにお待ちいただければと思います。