制作日誌

「6周年前夜祭」朗読劇の制作風景④

前回は、声優さんにグリーンバックの背景をどうなじませたかなどを話しましたが、今回は個別の演出で工夫したポイントについて話そうと思います。この解説記事は、これで最後となります。

※「殺戮の天使 6周年前夜祭」のアーカイブ配信期間の8月31日まであと少しになりました!
声優さんの素晴らしい演技、質問コーナーでの緊張とワイワイした雰囲気、スタッフさんの用意してくださったレイチェルとザックの人形など、たくさんの情報が盛りだくさんです。
きっと楽しんでいただけると思いますので、まだご覧になられていない方は、ぜひ観ていただけると嬉しく思います!

■なぜ影絵での表現になったのか

さて、まず今回の朗読劇で多くの方が気になったのが――冒頭の登場人物紹介以外では、キャラクター絵が使用されていないことではないでしょうか。人物を使うシーンが限定されており、そこでさえも全て影絵を使っています。

ここは、実は最初は影絵ではなく、しっかりとしたキャラクターの絵を全ての背景に入れる案もありました。そちらの方が、ファンの方は嬉しいのではないか、という意見はスタッフの方からも出ました。
ところが、それでは背景に気を取られて、せっかくの声優さんの演技への集中がそがれる上に、キャラ絵をきちんと描けば描くほどに、シーンやセリフの移りゆく流れに合わなくなる瞬間が出てきて、どうにも気持ちが冷めてしまうのです。

ゲームではセリフごとに細かく顔色を変え、心情の変化を見せていましたが、動画でそれを再現するのは難しかった……という言い方も出来るかもしれません。
ただ、そもそもこれは「朗読劇」。その上「オンライン朗読劇」という、演者がメインに映る動画になります。

「なら、声優さんが演じてくださっている間、その姿は登場人物として見えているはず。ならば画面に同じ人物が二人もいる必要はないのではないか?」

そう思い、登場人物のイラストは冒頭の紹介と、ミッションのタイトルでの影絵のみで表現することにしたのでした。
結果的には、モノクロのイラストに影絵はピッタリでしたし、『殺戮の天使』という作品の雰囲気もしっかり出ていたように感じます。

■“朗読劇”であり“動画”であることへの意識

個別のシーンの話もしていきたいと思います。
とはいえ、一枚絵を背景に置く手法にもデメリットは存在しており――それは、絵替わりやシーンの心情の流れなど「時間の経過」を視覚的に表す力が弱いということです。

そこについては、「動画の強み」というものを活かして、エフェクトなどを使用しながら、そのシーンの印象を全体的に表現する形にしました。

分かりやすいところでは、電気椅子の部屋ならば電撃がビリビリする動画を画面全体に重ねたり、毒ガス室ならば画面下部にガスの煙のアニメーションを入れて、どんどん煙を濃くしていくようなやり方です。
少し変わったところでは、モノマネのシーンなんかもあります。

ここは時間が経つにつれて壁が迫ってくるのですが、そこで徐々に壁が奥まっていく絵に差し替えることはしませんでした。そうやって具体的に表現するよりも、あえて壁を映した画面の四方を少しづつ暗くしていくことで、シーン全体の“圧迫感”を表現してみました。

こういう演出は絵替わりになるだけでなく、シーンの緊迫感やボルテージを段階的に上げていく役目を果たしてくれているのではないか、と思います。

(……今思うと、電気椅子の電撃は少しビリビリしすぎているかもしれませんね。相手がザックなので「容赦ないほうがいい!!」と思っていましたが、レイチェルが言うように「さすがに死ぬ」レベルの電撃になっているように思います。笑)

■「オンライン朗読劇という動画」

ここまでに書いたような工夫は、やはり「朗読劇」と「オンライン朗読劇」という二つの表現の違いから生まれているもので……単なる朗読劇では必要なかった工夫だったように思います。

この両者の違いを意識する場面は沢山あったのですが――やはり本来はライブである「朗読劇」という表現に対して、四角い画面の枠に収められた「動画」という見せ方は全く違うのです。その二つを、どう融合させていくのか――これが一つ大きな課題でした。

その意味で勇気が要ったのは、「ザックの過去」のシーンになります。

今回の朗読劇用に新たに入れた、ザックの独白。あのシーンはあえて背景をかなり暗く、一部では完全に真っ黒にして声優さんの演技と音響だけを使いました。

「これが舞台なら、きっとピンスポットのみの演出をするだろう」

そう思ったのが理由です。

ただ、これはあくまでも「オンライン朗読劇という動画」なのです。舞台とは違って、動画では演出を“何もしてない”だけの場面という風に、なりかねません。

それでも――ここはザックに対して強い思い入れを感じてもらえるようなシーンにしたかったのです。

彼の持つ過去の悲哀や、苦しみ、そしてその過程で得てしまった、どこか歪んだ強さを皆さんに感じてほしかった。そこをザック本人が独白で語ることは、多くの人の胸に直接的に響くはずだと思いました。
なので、ここの岡本さんのシーンは、最終的な演出の見た目こそ簡素ですが、実はかなり時間をかけて最後まで調節しています。

それと、このシーンのみ、バストアップのカメラ2台で撮影してもらっています。演者の絵替わりを入れられるのも、席が固定された舞台とは違う、動画だからこそ出せる強みだと思います。
その意味で、このシーンはやっぱり「映像の強み」も活かしているのかもしれないですね。

実際、こういう「映像の強み」を押し出したシーンも、けっこう沢山あります。
例えば、演者の映像を出さずに、背景の映像のみで見せることで、「心の声である」こともわかりやすく表現できます。レイチェルの拳銃のシーンなどは、そうですね。

彼女のその場での回想と心の声が、背景と千菅さんの声のみに絞った表現を用いることで、より深い印象をもたらせるのではないかと考えたのでした。

――他にも動画制作に関しては、悩み、考えたシーンは数えきれないほどあります。

でも、ワンシーン、ワンシーンを止めながら「ここは……」と語り続けるのは、少し膨大すぎるので……そろそろこの辺で、この解説記事のシリーズは終えたいと思います。

■次回を行うのであれば

最後に。
今回の動画制作は大変ではありましたが、それ以上に楽しく、新しい発見が沢山ありました。

脚本だけでなく、動画制作・演出の機会をいただけたことは、本当にありがたいことでした。そして今回の制作を踏まえて、まだ自分でも分かっていないことや問題点もいくつか見えてきた気がします。

自分の演出方法や、力の未熟さを実感した場面も多々ありますし、たとえば撮影段階でカメラワークについて、もっと話しておけばよかったなと……事前に完成形への想像力をもっともっと働かせる必要があったことも感じました。
シナリオも今後、もしこういうふうにゲームとは媒体が違うものが出るのならば、もっといろんな挑戦をするのが必要だなと思っています。

「殺戮の天使」は幸いなことに、連載終了後からもずっと、他の媒体でのメディアミックスが多く出ている作品です。6周年ではこういう機会がありましたが、今後もあるのであれば――その分、新しい視点、新鮮な体験を届ける方法を模索していかなければいけないと感じました。

――ただ、これは今だからこそできることなのかな、とも思っています。

ゲーム制作直後であれば、きっと頭はゲームの展開を頭で処理するのにまだまだ手一杯だったに違いないからです。

私自身、作者として一度は作り終えた作品に対し、さらにいろんな視点や柔軟な道を見出すきっかけをいただいたと感じています。
今後もまたこのような機会があれば、また新たな視点を見出していきたいところです。



・・・・・・そして、今回の解説シリーズ、楽しんでいただけたでしょうか?
がんばって書いてみましたが、やはりこんなふうに具体的な言葉にして説明するのは得意ではないですね……!
分かりづらかったら、すいません!笑
今後はもう少し気楽にぬるい文章でブログを更新して行くので、ゆる~く見守っていただければ、と思います。

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色々と私自身の視点の話ばかり書いてしまいましたが、スタッフさん、声優さん、そして皆さんのお力添えをいただいたからこそ出来た企画です。全員が、ともかく「皆さんに楽しんでもらいたい」そして「声優さんの演技を引き立たせたい」という想いで、動画を制作していました。

アーカイブはもう少しで視聴が終わってしまいますが、導入のOPの部分も「カッコよくてワクワク感のあるもので、皆さんをお迎えしたい!」という気持ちで作っていますので、ドキドキ、ワクワクした気持ちのまま最後まで観ていただけたのならば嬉しいです!

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「殺戮の天使 6周年前夜祭」のアーカイブ配信は8月31日までございます。
詳細情報、チケットについては下記のリンク、もしくは「殺戮の天使公式Twitter」へ。