制作日誌

「6周年前夜祭」朗読劇の制作風景①

先日の記事で予告した朗読劇の解説ですが、まずは脚本について語っていこうと思います。

「朗読劇は、Episode.2をやりましょう!」

――そう決まったのは、自然な流れでした。
放送でも語ったように、EP2はどこかバカバカしくも楽しいシーンが多く、それでいてザックやレイチェルの成長に踏み込む内容になっています。今回の“前夜祭”というお祭りにピッタリだと思いました。

ですが、いくつかの理由によって、ゲームの内容をそのまま使うわけにはいきませんでした。
今日はそのあたりを解説してみようと思います。

■時間に限りがある中で

※最初に印刷された脚本。編集作業と共に何度も読んだせいで、折り目が……。

まず――お話が持ち上がってから、さっそく実際に脚本を書いてみました。しかし、その初稿は……文字数から計算するに、ゆうに2時間以上の上演となる分量でした。

さすがに長すぎでしたが、そうなった理由は今回の朗読劇で“やろう”と決めていたことにも原因がありました。

それは、「新しいシーンやセリフを追加する!」ということです。
ゲーム、アニメ、漫画と、様々な媒体で殺戮の天使の物語は語られています。だからこそ、また新鮮に鑑賞していただきたく、新しい発見を届けたかった。
しかし、これはもう普通の形で実現するのは、難しい。今回の朗読劇の試行錯誤は、そこから始まっていきました。

■メディアに合わせた表現

※「暗闇迷路」ワンシーン

とはいえ、やるべきことは一つです。それは――

「物語の各シーンにおける機能を損なうことなく、再構築すべき」

ということです。

ただ、それにあたっては、単に分量の問題にとどまらない、もう一つの課題もあります。
それは、メディアの特性を考えて、上手にメディアを超えて作品を移し替える必要があるということです。

例えば、朗読劇の中に「暗闇迷路」に変更されたシーンがあります。実はこの箇所、アニメでも表現が違っていたのを覚えている方も多いかもしれません。ゲームではピョンピョンとザックが飛ぶミッションの場面が、アニメではドールハウスの場面に変更されていました。

実はここはアニメのシナリオ制作時に、「この場面の表現はゲームならではのもので、アニメの表現に合わない」と、アニメ制作の方からご相談を受けて脚本に追記した経緯があります。
そのときに私なりに、音や動きに強い映像表現というメディアを活かせる形で考えた結果が、

「では、ザックの過去を再現したドールハウスに変更するのはどうでしょうか?」

という、実際のアニメで放映されたシーンに繋がりました。

原作ゲームとは異なることは、当時この作品のファンの方にどう受け取られたのでしょうか……。

ただ、大切なのはミッションの内容よりも、そこでザックとレイチェルの間に起きたことの「意味」が守られることです。このシーンであれば、「何も知らないレイチェルが、ザックの心を抉っていく展開」にこそ意味があります。
大事なことは、ゲームやアニメの特長を活かして、それに合った表現を考えていくことだと思うのです。

■朗読劇で大事になること

※朗読劇本編用に書き下ろしたイラスト。ドットだった背景を改めて自分でイラストで描くのは楽しかったです。

さて、そういう視点でいくと、朗読劇で上手くいくのは、どんな表現でしょうか。

私は――「いかに内容を“想像”をしてもらえるか」――が大きな鍵になると考えました。

そう考えると、アニメのドールハウスなどは『部屋にある細かな小道具を想像すること』が、普通の人が持っている想像力の限界を超えているように思い、朗読劇には不向きです。であれば、想像しやすく、シンプルに、そしてなによりザックの心の乱れを出来るだけ感じとってもらうべき――

それらを優先して脚本を直した結果が、暗い背景のなかで岡本さんの演技に耳を澄まし、ザックが暗闇の中で手探りをする姿を想像してもらう……という表現でした。

結果的には、もしかすると今までで一番、胸の苦しくなるミッションになったのかもしれない、と思っています。声優さんの演技も相まって、動画編集時はシュン……となったりしました笑。
見ていた方は、他にも今回のシナリオを通じて、とにかく細かな変更がたくさんあったことに気付かれたかもしれませんが、それらはここを意識して変えていったものです。

■新しい要素

さて、こんなふうに朗読劇というメディアを考えていくと、とにかくシンプルにしていくことが一つ方向性として出てきます。しかも、それは2時間にもなる分量を削るという方向性とも合っていました。

とはいえ、それらは単純なカットとは違います。むしろ構成を検討していくことで、ずいぶんとお話の見通しもよくなり、その分だけ最初に書いた「新しいシーンやセリフを追加する!」という目標も入れやすくなっていきました。

おかげで、本編では暗転で存在しなかったシーンや、レイチェルやザックの心情を表すセリフなども、追加することができました。

特にザックの過去に対するザック本人の独白は、岡本信彦さんの素晴らしい演技も相まって、ザックというキャラクターに踏み込めただけでなく、朗読劇らしいシーンにもなっていると感じており、追加してよかったなと思っています。

他にも……

――自分の意志を何度も尋ねてくれるザックに対するレイチェルのセリフ。

――「今だけ俺に殺されるな」といった後、レイチェルが逃げるまで耐えるザックのセリフ。

――ガス室で天井付近のダクトにぶん投げられたレイチェルがどうやって降りたのか。

などなど、けっこう多くの新しい場面があると思いますので、お気づきの際には楽しんでいただけると嬉しいです。

■新ミッション「モノマネ」について

さて、こうやって、いろいろな変更・追加があった朗読劇ですが……。
やはり、どうしても「え、こんなシーンは知らない……!」と思っていただけるような、「完全に新しいミッション」もお届けしたい! と今回は強く思っていました。

そして、それならば本編の内容を崩さず、観ている方が楽しくて笑ってしまうくらいの、この“お祭り”イベントに相応しいものにするのが目標でした。
そこで、登場したのが――『各フロア主のモノマネ』です。

B3フロアにたどり着いたレイチェルとザックは、すでにグレイを除くすべてのフロア主の存在を知っています。

(そう、ならばモノマネができる……!)と私は強く思ったのでした。

また、それと同時に(朗読劇ならではの、生っぽい反応が見たい!!)と思いました。なので――実は、あのモノマネそのものと、それに対するレイチェルとザックの反応については、なんと脚本に『アドリブでお願いします』と、書かれているのです。

ですから、収録当日まで私もどんなシーンになるのか知りませんでした。が、収録中に笑い声を抑えるのが難しいくらいには、楽しいシーンになりました。笑

個人的に、千菅春香さんの演じるレイチェルの、キャシーのモノマネは、あまりにもレイチェルすぎて、舌を噛んで笑うのを耐えたほどです。レイチェルとザックらしいモノマネでありつつも――しかしどこかうっすらと素の反応が見えるライブ感のあるシーンになっているので、まだご覧になっていない人がいましたらば、ぜひ、観ていただくことをお勧めします。

(※アーカイブ配信は8月31日まであります!)

動揺しているザックも必見ですよ。

■次回は動画編集について

今回、長々と書いてしましたが、初稿であまりにも分量が多いと気づいてからの、直していく作業そのものは、なんだかお話を研ぎ澄ますような心地になる、思いのほか楽しいものでした。

さて、次回は動画編集について語れればいいなと思っています。気になる方はぜひ、次回も読んでくださると幸いです!

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「殺戮の天使 6周年前夜祭」のアーカイブ配信は8月31日までございます。
詳細情報、チケットについては下記のリンク、もしくは「殺戮の天使公式Twitter」へ。